描かれたただ一つの結末と、想像出来る希望(バイバイ、ブラックバード - 伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎の新しい文庫。伊坂幸太郎だけは文庫全部買ってます。

五股と怪人

設定がいつになく無茶な感じで。やんごとなき事情により、並行して付き合ってた五人の女性に「体重200kgの女子」と共に別れを告げに行く…と言う、絵を想像しただけで無茶な話です。

五人それぞれの女性との話が少しずつ繋がって最後に、、と言ういつもの伊坂パターン。五人とそれぞれ色んな出会いが合って全員に「あの時の言葉は嘘だったの?」と言われ、そして事件が起きて、全員と別れたけど少しずつの希望は残って。五つの話が単体で楽しめて五回おいしい感じで、最近読んだ伊坂本の中で一番面白かったかも。(毎回言ってる)

自分のためか人のためか

何のために別れて回るのか、黙って去ればいいじゃないかとヒロインに言われるんですが、頑にみんなに会おうとする主人公。「じゃないと彼女たちも先に進めないから」と。でも、

「あの女のことなんかじゃなくて、おまえは、おまえ自身のために、検査結果を知りたいだけだ。そうだろ?」 - P.199 繭美

とか言われてしまうこともあって。世の中にある「人のため」なんて最終的には「自分のため」なんだろうなぁと思います。と言うか人の行動原理なんて最終的にはそこに行き着くものでしょう。でもそう言ってしまうと空しいししなんか嫌だしかっこ悪いから、もっともらしい言葉を使うのかな。でもそれで誰か救われることもあるなら悪いことではないよね。

描かれたただ一つの結末と、想像出来る希望

ちなみに一番好きなのは第4話です。希望はいつも残ってるんですが、ちゃんと描かれないことが多いです。でも作者自身が「小説だから読者の好きに考えて下さい」と言ってるように、割とひどい話でもちゃんと読者が自分で考えて幸せになれる「余地」を残してくれているのが、この人の本の面白いところの一つ。書かれたただ一つの幸せな結末よりも、想像出来る無限の希望の方がより幸せを感じられるのかも。それは現実世界でも同じな気がします。