彼方のカナダからあなたへの手紙

拝啓 ○○様

日本はいま大型の台風で大変だそうですが、いかがお過ごしですか。私は今カナダに来ていますが、こちらはとても穏やかな天気で毎日平和に過ごしています。

仕事を全部放り出して来てしまったのがとても心苦しいものの、せっかく来たのだからと半ば開き直りながら10日間をこちらで過ごしました。東京とは住んでいる人も、言葉も、文化も、建物の年代も、そして周りの匂いも音も全く違う世界に生きていると、今までの世界とは本当に違う世界にタイムスリップしてしまったような気がしてしまいます。

最初に訪れたのはケベックシティと言うカナダの中でも歴史がある都市で、城壁に囲まれた街はさながら日本の城下町のようでした。それでも街から見える海の風景はどこかアニメやゲームの中に出て来るようで、まるで中世の海辺の街です。訪れる時に乗った大陸横断鉄道も日本の新幹線ほど速くは無く、周りの景色を見ながら三時間かけて移動すると言うのはただの移動手段ではない電車の意味を感じました。

次に訪れたのはモントリオールと言うカナダで第2の都市です。北米のパリと言われることもあるらしいこの街は歴史的な街並みや石造りの家や教会が多く、そもそもケベックシティと同じくフランス語が公用語なので、今まで何度か訪れたアメリカや中国などとは違った意味での異文化を感じることが出来ました。そういえば街にはとても公園がたくさんあって、そこには驚くほどたくさんのリスが住んでいました。日本ではかわいいイメージのあるリスですがあれだけ多くのリスが走り回っている姿はまるで……でした。怒られそうなので、これはあえて書かないでおきます。

その次に訪れたのはキャベンディッシュと言う、プリンスエドワード島にある小さな村です。有名な、赤毛のアンと言う物語の舞台になった場所です。タクシーの運転手さんに聞いたところ、14万人くらいしか人が住んでいない島なのに年間で100万人近くも観光客が訪れ、日本人も5000人くらい訪れるそうです。ただ観光地としては秋の今のシーズンを過ぎると雪が深く身動きが取れなくなるため、冬には村からは人がいなくなりみんな街に戻ってしまうそうです。この小さな村に地球の裏側にある日本から多くの人々が訪れ、その人達が村の経済活動を担っていると言う事実は、アンの物語の感動以上に感動的な事ですね。写真はこのキャベンディッシュ村で撮った写真です。

最後に訪れたのはナイアガラの滝で有名なナイアガラフォールズと、ナイアガラオンザレイクと言う街です。正直に言うと今回の旅行はプリンスエドワード島がメインだったのでナイアガラはおまけかな、くらいに思っていたのですが、ナイアガラの滝は何とも雄大でさすが世界一の滝だと素直に感動してしまいました。しかもナイアガラは想像以上に観光地化していてカジノも映画館もクラブも、ありとあらゆる種類の飲食店も揃った歓楽街で、かなりイメージとは違っていました。別の意味でイメージと違っていたのはナイアガラオンザレイクで、数々のワイナリーや歴史的な街並みは他では見る事の出来ないものだったと思います。お土産の一つはここで買ったアイスワインです。


この手紙はいまトロントの空港で帰りの飛行機を待ちながら書いています。考えてみればいつも手紙を書くのはなぜか空港が多いですね。それはきっと時間があるから、というだけではなくて、旅の終わりや始まりが、何か物事の区切りも示しているからに他ならないからだと思っています。

今まで国内も海外もそれなりの数の旅行に行って来ました。でも、そこまで自分が旅行と言うものを好きになれなかったのは、どこかしら現実の延長上にそれらがあって、世界としては今までと同じ場所にいたからだったのかもしれません。今回初めて、物理的にも、精神的にも普段生きている現実世界から遠く離れてみて分かったのは、旅行一つで今までの生活に区切りを付け、今までの世界とは違った世界を生きられる可能性があると言うことです。たったこれだけのお金でもう一度、別の人生を歩む事が出来るのだとしたら。もしかすると旅行は世界で一番安い買い物の一つかもしれないなと思ったのでした。

だからまた、みんなで色んなところに旅行に行きましょう。ではまた。

敬具

2013年10月17日 まんとる トロント・ピアソン国際空港にて