仮想世界の歴史の紡がれ方 〜ガンダムUCが繋ぐUC〜

ガンダムUCと言う、ガンダムの最新OVAシリーズがありまして。こないだ4年を経て完結したので今日またこないだのまどマギの話と同様に全部一気に見たのです。これもまた、早くに見ていなかった自分を責めたい級のアニメでした。音楽とか超よかった。。UNICORNかっこええ…名曲。

ガンダムの歴史とその正史の定義

見ない人には全くピンと来ないと思うんですが、ガンダムの世界と言うのはもはや人々によって作られた歴史そのものなのです。35年かけて語られて来たのは個々の単発のアニメ、映画作品ではなく、そこにはその世界を通して息づく象徴や人格が確かにあって。色んな人が色んなその世界を語り、表現していく創造上の世界なのですが、それはもう日本の歴史や世界史などと同様、凄まじい詳細さと量、そして熱意で語られているものなのです。

そういう意味で、ガンダムの世界は既に「歴史」を持っています。多くのアニメや小説、同人作品などを生みそれらが紡いでいる世界の歴史。例えば宇宙世紀やそれ以外の世界であったとしても、ガンダムと言う名前を通して創られている創造上の長い歴史を持つ世界。

しかしそのガンダムの歴史における正史、正しい歴史とは何であるのか、これについてはただ一つ定義が定まっているわけではありません。「映像化されたガンダムが正史」「宇宙世紀が正史」「ファーストガンダムだけが正史」など、色んな考え方がこれまでにも存在しています。では、ガンダムに触れる人達はいったい何をもってそれらを「正しい」としているのでしょうか。

何が仮想世界の歴史を定義しているのか

何を信じるかはもちろん人それぞれなのですが、すごく簡単な言葉で言うと原則的には「人気がある」「多くの人が良いと言って認めているもの」を正史と読んでもよいのではと僕は思っています。極端な話、100人いれば100人の「ガンダムの歴史」があるはずなのです。個々人が持っているそのガンダムの歴史、ガンダムの世界にどのガンダムや人々が存在していたと「認める」のか。ただそれだけの話なのです。

ではその世界に何を認めるか、その基準は統一されるものではありませんしそんな必要もありません。一つ言えるのは「作品としてストーリーとしての完成度が高く過去との整合性が取れていて映像的にも音楽的にも優れていてキャラクターにも感情移入がし易く色々と想像し易い商業的にもお金を稼いでくれる作品」として語られているガンダムはその歴史として受け入れられる可能性が高い…それを一言で言うと「人気があるガンダム作品は正史足りうる」と言うことだと思います。

人気があるから、みんなが認めるものが正しい歴史になっていく。公認されていく。実際の日本史や世界史と言う歴史であれば、それは物的証拠などによって裏付けられ多くの学術研究を経て「正しい」と認められることになると思いますが、創造上の世界の「歴史」を作ることなんてかつての人類がどれだけやって来れたと言うのでしょうか。2000年の昔からこの世界の成り立ちについて語られて来た物語は確かにあると思いますが、完全なフィクションとしてこの規模で語られ続ける世界というのは他に類を見ません。

これってすごいことだと思うんですよね。「○○は異端/正史」と言う学派と、それに対立する学派がいる。でもその基準って人によってもちろん違っていて個人個人での世界の広がりとその規定が存在しているわけです。何がすごいってそういう「価値判断基準」自体をみんなが創り出していて、人の意識の中に深く世界が広がっている、と言うのはもう「ただの巨大ロボットアニメ」ではないのです。ほんとは誰がどう思おうとどうでもいいはずなのにね、そんな設定。そして興味の無い人にとっては本当にどうでもいいはず…でも、それでも、この世界がどんどん広がっていく感覚ということ自体がファンにとってはとてもおもしろく感じるのです。

そして過去を肯定するガンダムUC

さて、そのガンダムの歴史の中で、ユニコーンはそのストーリーと描写によって過去の宇宙世紀物語との接合を行い、そしてその人気によって新たな正史となろうとしています。ガンダムUCにより語られる新たな世界、大きなものとしては「シャアのその後」とそれ以前のファースト、Z、ZZ、逆襲のシャアのほぼ全肯定が大きいのではないかなあ、と個人的には思います。そしてサイアム・ピストの声を永井一郎氏がつとめることにより、過去の一年戦争のストーリーも含めて彼のモノローグだったと言う形式にして宇宙世紀を締めくくっている、とも取れます。

これだけの人気をガンダムファンの間で得ている新たな作品と言うのは直近だとあまりなかったはずです。ガンダムUCで語られていることがすごいと言うことよりもむしろ、ガンダムUCが肯定された(人気が出た、売れた、"多くの"人が良いと言った)ことによって、過去のUC作品(Universal Century作品)が全て肯定されてしまったことがすごいのです。

ユニコーンの0096の時代から過去の0078〜0093までを語ることにより、それらで描かれていた全てのシャアも、アムロも、カミーユも、ジュドーも、ハマーンも、強化人間も、そしてアースノイドスペースノイドとの対立も、その因縁も、ジオンの意思も、、何もかもは確かにそこにあり「ガンダムの歴史の正史であった」と言われることになった。ZZの存在も確かにあったし、カプールだってガルスJだってあったし、プルもプルツーもいて、だから12がいて、そしてそれらの存在を経た後で、確かにシャアはアクシズを地球に落とそうとしたしそしてまだスペースノイドの解放を望んだのだ、と言うことが「肯定」された。

ガンダムUCはそこで新たに示した歴史とともに、仮想世界の歴史がこうやって紡がれていくと言うその構造を改めて示したと言う意味でとても重要な作品にこれからもなっていくのだと思います。とてもいいガンダムでした。まる。